建築士・建築家ってどんな仕事!? 資格は必要? 注目の若手建築家に聞く

まずはこの模型写真にご注目!
 
一見、遊園地みたいだけど、なんだか分かる?
 
実はこれ、住宅の建築模型なんだ。
 
「森を観察しながら育てるための展望台付き住宅」というコンセプトで、ちょうどいま、実際に計画されているのだそう。

 
こんな独創的で夢のある家造りに取り組んでいるのは、建築家の中川エリカさん(34歳)。
 
今注目の若手建築家のひとりだ。
 
建築家とはどんな仕事なのか、中川さんにお話を聞いてみた。
 

<<目次>>
●【きっかけ】
 「おもしろそうかも?」と軽い気持ちで大学の建築学科を志望

 
●【仕事の内容】
 住む人の視点に立って、楽しく過ごせる家を考える

 
●【独立】
 自分の建築設計事務所を開業

 
●【仕事のやりがい】
 この仕事の醍醐味は探求していけること! いつも発見がある

 

 

【きっかけ】「おもしろそうかも?」と軽い気持ちで大学の建築学科を志望

 

中川さんが建築の道を志したのは高校2年の時。
 

建物がすごく好きで目指したのかと思いきや、消去法で考えた結果だという。
 

「数学が大好きだったので、大学の理系学科への進学を希望しました。
 
でも、医療職は血を見るのが苦手だから無理だろうし、研究室にこもって研究に没頭する仕事も向かないなと…。
 
そんな時、目に留まったのが建築学科。
 
私は工作も好きで、素材を組み合わせるうちに思いもよらないものができ上がるというのが楽しくて
 
『建築っておもしろいかも?』と、軽いノリで建築学科を志望しました」

 

 

横浜国立大学 工学部 建設学科 建築学コース(現・都市科学部 建築学科)へ入学。
 
ここで、「おもしろいかも?」が、「おもしろい!」と確信へと変わる

「例えば、家を一軒建てる場合、住む人がどんな暮らしをしたいのかはもちろん、家が建つ地域全体のことを考えるのが重要だと教わったのです。
 
家は街の風景を構成する要素でもあり、家など建築物は社会の中に残る文化でもあると知り、感銘を受けました

 
卒業後、「知識と感性に磨きをかけたい」と東京藝術大学大学院に進学し、建築設計を専攻。
 

【仕事の内容】住む人の視点に立って、楽しく過ごせる家を考える

 
大学院修了後、設計事務所のオンデザインに就職。

「大学の仲間には、大きなビルを手がける建設会社に就職した人も大勢います。
 
でも、私は人間の生活に密着した住宅を造りたくて、建築家個人の設計事務所に就職しました」

オンデザインに7年勤め、設計の実践的な技術や予算調整など多くのノウハウを身につけた
 
なかでも「大切なことを学べた」と中川さんが言うのはコミュニケーション能力
 

「この仕事の基本は、お施主(せしゅ)さん(依頼主)の希望や予算を聞き、創意工夫しながら建物を作ること。
 
お施主さんの思いを聞き出し、それを受けてこちらから建物のモデルプランを提案します。
 
そのプランについて、なぜこういう建物を企画したのか、この建物のどんなところが良いのか、そういった自分の考えを相手に伝える力が必要な仕事なんです」

 
設計事務所内でチームを組む案件もあるので、チーム内のコミュニケーションも大切
 
また、建築工事の現場の人たちとのコミュニケーションも欠かせない
 
工事現場に出向いて施工を担当する工務店の人に進行状況を聞いたり、指示を出すことがあるからだ。
 

そうしたさまざまな人と交わすコミュニケーションから多くの意見を吸収し、そこから得られる気づきがあり、日々勉強だという。
 

そんな中川さんは29歳の時、建築家の登竜門といわれるJIA(日本建築家協会)新人賞を受賞
 

受賞作品は、オンデザインに就職した1年めから手がけたヨコハマアパートメント(横浜市)。
 

▼ヨコハマアパートメント

Ⓒ鳥村鋼一※西田司/オンデザインと共同設計

 
2階に4室の居室がある木造賃貸アパートで、1階には住人みんなが使用できるスペースがある。
 
この共用スペースは広々としていて、アパートの住人同士で食事をしたり、近所の人を招いてイベントを開くなど、交流の場として使われる。
 
一般的なアパートには見られない、新しい形のアパートとして高く評価された。

「お施主さんのご要望は、『若い人のための住む場と、何かを作る場になるようなアパートにしたい』とのこと。
 
それに対し、当時の私は駆け出しで、どう造ればいいのかわからなくて…。
 
ならば、この場所でどんなふうに過ごせたら楽しいかなと、住む側の視点で考えて設計したのです。
 
お施主さんにも気に入っていただけて、建築物として実現できました。
 
この仕事がきっかけで、『どんな住み方をしたら毎日が楽しくなりそうか』を追求し、それを建物に反映させることにこだわるようになりました」

 

【独立】自分の建築設計事務所を開業

 
2014年に独立し、中川エリカ建築設計事務所を設立。知人のつてやホームページ経由で仕事の依頼がある。
 
今では住宅のほか、オフィスやパブリックスペースなど手がける分野が広がっている。
 
どんな作品があるのか、見てみよう!
 
▼2015年に完成したコーポラティブガーデン(写真は建築模型)

Ⓒ鳥村鋼一※西田司/オンデザインと共同設計

 

地下1階、地上9階建てのマンション(8住戸)。
 
住宅建築業界で「コーポラティブハウス」と呼ばれる方式で建設された。
 

通常の新築マンションは建物が完成しなくても売り出しをする。「そこに住んでみようかな」と考えている人はモデルルームという、見本になる部屋を見学して決めるのが一般的。
 
ほとんどが間取りやデザインなどが決められているけれど、なかには「自由設計」といって、室内のデザインを変更できることをセールスポイントにしているマンションもある。
 

それに対し、この「コーポラティブガーデン」は住む人の好みに合わせて各部屋を自由に設計するというマンション。
 
室内だけではなく、外壁のデザインや、窓・ドアの位置なども自由に設計できるのが大きな特色だ。
 
「各部屋には、自分たちらしい生活を楽しめるような特徴をもった庭があるんですよ」と、中川さん。
 

▼静岡県熱海市の「桃山ハウス」。今年5月、東京建築士会主催の「2017年住宅建築賞金賞」に輝いた

Ⓒ鳥村鋼一

 

ヘアピンカーブ状の山道に面して建てられた。周辺の自然環境となじむ、開放的な屋根が特徴的だ。
 

【仕事のやりがい】この仕事の醍醐味は探求していけること! いつも発見がある

 
そんな中川さんに、いまの仕事についてどんな風に思っているか、聞いてみた。

 

ーー仕事で大変なことは?

「設計には締め切りがあるため、遅くまで働くこともしばしばで、勤務時間は長いです。
 
また、ひとつのプロジェクトが完成するまで2年、3年と長期になる場合もあり、お施主さんのご要望などによっては、設計を変更することもあります。
 
でも、『建築が好きだ!』という思いがあれば、続けていける仕事だと信じています

 

ーーでは、仕事のどんなところに魅力を感じる?

「やればやるだけ、多くの発見があること。
 
新しいプロジェクトにかかわるごとに、世界が広がっていくのを感じます。
 
お施主さんのご要望、建物を建てる立地、地形、周辺環境などの条件があるのですが、それらを制約と考えずにどう生かすかを考える。
 
ここにおもしろさがあります」

また、組織に所属せず、独立開業しているので、定年はなく、長く続けられる。
 

「結婚・出産後も活躍している女性建築家はたくさんいますよ」と語る中川さんは、昨年、結婚。
 
夫は海外の建築設計事務所に勤務していて、目下、遠距離での結婚生活なのだそう。
 

建築家の仕事に興味がある高校生に向けて、メッセージをもらった。
 

「例えば、自分が住む地域にすてきな図書館があると、幸せな気分になれますよね。
 
私は、そういう日常の幸せを感じてもらえる建物を造りたいと思います。
 
そのためには自分がおもしろいと思えることをたくさんみつけ、感性を豊かにしていきたいです。
 
何かに対して『おもしろくない』と思うのは、それがおもしろくないのではなく、私がおもしろさに気づけていないだけなのです。
 
高校生の皆さんも、物事に対して先入観をもたず、おもしろいと思えるものをみつけてくださいね。読書でも音楽でも、なんでもいいんです。
 
毎日の暮らしの中で見つかるでしょう」

 
勉強や部活の中にもおもしろいと思えることがありそう!

 
 

☆建築家として活躍するには…
 
建築士の国家資格が必要。
 
資格は「一級」「二級」「木造」の3つに分かれ、それぞれ法律で業務範囲が定められている。
 
あらゆる建築物を手がけることができるのは「一級建築士」で、中川さんがもっているのが一級建築士。受験には所定の学歴のほか、実務経験が必要。
 
「二級」と「木造」は、大学や専門学校などで建築関係の課程を卒業すると受験できる。
 
ちなみに、建築家と名前が似ている職業に「建築士」がある。建築家とどう違うのかというと、特に定義はなく、仕事内容もほぼ同じ。一般的には手がけた建築物が作品として認められている人のことを建築家と呼んでいる。

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